第9章 風柱と那田蜘蛛山
千寿郎の言葉に思わず胸がキュンとなり、もう一度ギュウっと抱きしめてから体を離した。
「千寿郎君の私を呼んでくださる声、しのぶさんの優しい手の温もりも朦朧とする意識の中で鮮明に届いていました。本当にありがとうございます」
更紗がいつも通りの柔らかい笑顔を2人に向けると、安心したように2人は胸をなでおろし息をついた。
「元気になられてよかったです。あと一歩遅ければ、私の持参していた造血薬でも危うかったので。更紗ちゃん、枕元にいる子がいち早く貴女の危機を知らせてくれたのですよ」
そう言って更紗の気を神久夜へと向かせ、しのぶは1人考えを巡らせる時間を確保した。
(いくら何でも回復が早すぎます……あの出血量だと私の薬を使用したとしても通常であれば、目を覚ますまで数日はかかるはず。それが四半刻も経たず目を覚ますなんて……血を媒介にする治癒は血液が生成されないのに、それ以外は自然治癒が適用されるのでしょうか?まだまだ知る必要がありますね、とりあえず……)
しのぶは涙を流し喜んでいる神久夜に頬ずりしている更紗の様子を伺うも、やはり無理して元気を装っている様子はない。