第9章 風柱と那田蜘蛛山
早く行って来いと手をヒラヒラさせるが、その手を更紗がパシッと掴み取る。
「お義父様もご一緒しましょう!お酒を嗜まれる方もいらっしゃいますので、きっと楽しいと思います。杏寿郎君ともお酒を交わされてはいかがでしょうか?」
いきなりの提案に槇寿郎は戸惑い杏寿郎に視線を送るが、更紗の言葉に賛同するように笑顔で頷き返される。
「こんな機会、滅多にございません。父上も何名かは面識がございますし、伊黒も来ております。久方ぶりに話すのもいいかと思います。あと、私の酒の相手もしてください」
こうも実の息子と将来の娘に言われてしまっては断るに断れない。
槇寿郎は立ち上がり、少し乱れていた襟元と袂を正し深呼吸を1つ。
「分かった、お前達を祝うために来てくれたのであれば俺も顔を出さんわけにはいかない。行くとしよう」
数か月前までは考えられなかった槇寿郎の言動に杏寿郎が嬉しそうに笑顔をこぼし、更紗が立ち上がるのを手で導く。
その間も更紗は笑顔で槇寿郎の手を握ったままだったので、そのまま全員が集まる居間へと更紗を真ん中に廊下を進んでいった。