第9章 風柱と那田蜘蛛山
それから昼過ぎまで2人は睡眠をとり実弥とはそこで別れ、現在は明日、更紗の両親と会う予定の藤の花の家紋の家へと到着していた。
着く頃には夕刻で、すでに家の者が風呂や夕餉を準備してくれており、あれよあれよという間に就寝準備まで整ってしまった。
「杏寿郎君、どうしましょう?私、まだ全く眠くありません」
「偶然だな!俺も全く眠気がこない!まだ夜は長い、庭へ出て藤の花でも見に行かないか?夜は行灯で照らされて、きっと更紗も気にいると思う!」
思ってもみなかった杏寿郎の提案に、更紗は頬を紅潮させて満面の笑みになった。
「ぜひ行きたいです!藤襲山の藤は少し怖かったのですが、ここで杏寿郎君と見る藤はすごく綺麗だと思います!」
ようやくいつも通りの笑顔を見て杏寿郎は笑みを深め、嬉しさから紅潮した頬に手を当てる。
「更紗の笑顔は見ているだけで癒される。抑えがきく時は来るのだろうか?」
そう言って更紗の小さな桜色の唇に自分の唇を軽く重ね合わせるも、その温かく柔らかな感触に酒に酔った時のように脳がビリビリと麻痺していく。
それに加え更紗のトロンとした表情がそれに拍車をかける。