第4章 鍛錬と最終選別
無事に浴衣を着用した杏寿郎はまだ起きているであろう、父親の部屋の前に到着していた。
「父上、今お時間よろしいですか?」
ブッと飲み物を吹き出す音がする。
何の用事で来たのか分かっているのだろう。
「……!!失礼します!」
杏寿郎は返事が返ってくる前に父親の部屋の襖を開けた。
その部屋の主は特に怒ることも無く、縁側に腰を下ろし……肩を震わせている。
「あの、父上、もしかして笑っていらっしゃいますか?」
その言葉に反応するように肩の揺れがとまった。
どうやら笑っていたようだ。
「何か用か?」
白々しい質問に、杏寿郎は思わず聞こえないほどの溜息をもらす。
「父上ですよね?更紗に変なことを吹き込んだのは……」
しばらくの沈黙の後、槇寿郎は返事をする。
「あの子は無事にお前を捕まえたようだな」
まともに会話をするのが、まさか嫁入り前の娘を入浴中の息子に差し向けると言った暴挙に対する抗議だとは、杏寿郎は夢にも思わなかった。
「父上のお陰様で無事に捕まりました」
皮肉を込めて言うも、槇寿郎は意に介していないようで、笑いをこらえるような表情をしながら息子へと向き直った。