第2章 追い風
ここはとある宿屋の一室。
先程の屋敷があった場所から山を下ると、麓に小さいながらも存外綺麗な街がひっそりと佇んでいた。
煉獄1人ならば自宅からさほど遠くないので帰る事も可能であったが、今は更紗が一緒だ。
無害には感じられるものの傷を一瞬で治してしまったり、山を駆け下りたり悲惨な現場を目の当たりにしたり、人を1人埋葬しても自身の足で歩くことが出来る少女である。
自宅にはまだ少年と言える弟がおり、万が一のことがあってはいけないので連れて行けない。
しかし更紗は無一文で世間知らず。
それに加え普通の定義が周りとかけ離れている少女を、1人宿に置き去りにすると後々に罪悪感に苛まれそうで、どうしても出来なかったのだが……
「すまない!部屋が1つしか空いてなかった!安心して眠れないだろうから、俺は廊下で休む!ゆっくり寛いでくれ!」
「どうしてですか?何か問題ありますか?」
煉獄は明後日を見つめる笑顔で固まってしまった。
本当に分からない顔をしている。
子供が親に、太陽ってどうして太陽なの?
と質問の内容が答えのような疑問を純粋に聞いている雰囲気だ。
(うむ!俺が月神少女といると言う選択をしたことは間違っていなかった!)