第25章 決戦と喪失
(置いていかないで……もっともっとお2人と話したかった。もっと恩返しをして……幸せになってほしかったのに。もっと一緒にいたい!行かないで!側にいてよぉ……)
泣きじゃくる更紗に、初対面のはずの2人が顔を見合わせて困ったように笑いながら頷き合った。
『側にはいられない。でも貴女を誰よりも大切に想い慈しんでくれる人がいるだろう?その人たちと幸せになって下さい。俺たちのことはたまに思い出してくれればいい』
『ほら、いつまでも泣かないの。名前、呼んでくれてるよ?答えてあげなきゃ!約束、守らないと後悔するよ?早く戻って、私たちはずっと更紗ちゃんを見守ってる。1人じゃないよ』
今し方まで明瞭だった2人の姿が霞んでいってしまう。
悲しみのない優しい笑顔のまま……
「行かないで!」
手を伸ばした先にいたのは棗たちではなく、額に汗を滲ませながら心配そうに自分の顔を覗き込んでいた杏寿郎だった。
「更紗、どうした?こんなに泣いて……皆無事だ。竈門少年も元に戻ったぞ」
杏寿郎の言葉は更紗にとって間違いなく嬉しいものだった。
しかし今際の際で再開した2人の姿が脳裏に焼き付き、どうしようもなく悲しい気持ちも入り乱れ涙が止まらない。