第23章 上弦と力
「お薬……善逸さんや……他の方を助けないと」
まだ夢現なのだろう、呂律は上手く回っておらず鞄へと伸ばす手も緩慢なもので、何だったら鞄に辿り着けてすらいない。
その様が少し可哀想に思えた杏寿郎は更紗のさ迷う手を握り、自分が代わりに鞄の中へと手を入れて望むものを取ってやった。
「分かったからあまり動くな。俺が打つからじっとしていなさい。あと、意識が戻ったら首筋も治すんだ……針を打ちすぎて腫れている」
「……うん。どうりで少し痛かったんだ。でもその痛みで目が覚めて……よかったです」
目が覚めてよかったのか悪かったのか……皆の心境は微妙なところだが、敵の本拠地内ということを考えればよかったのだろう。
杏寿郎は小さく溜息を零しながら、しのぶの見よう見まねで腕の血管を探し出して痛みが最小限に済むようにそっと注射器を押し当てた。
「はぁ……流石しのぶさんのお薬です。少し眠ったのもあって凄くスッキリです。寝かせていただき、ありがとうございます!」
力なく杏寿郎に体を預けていた上体をシャキッと起こし、勇顔で皆に頭を下げる更紗に全員が呆れ顔だが、玄弥は気まずそうに頭をかいてその頭を下げる。