第22章 開戦と分断
「大切に……します。でも私は師範も……姉さんも大切にする。だから側に居させてほしいし、側に居てほしい。上弦の鬼と遭遇したら私が姉さんを援護して隙を作るから……勝って一緒に帰りましょう、アオイたちがいる家に」
その声は震えており、今度はしのぶの胸を鋭い痛みが襲う。
それが難しい願いだからだ。
今は1人ではないと言え、上弦の鬼相手に柱であるしのぶと甲ではない剣士のカナヲとの2人だけでは、勝つ見込みは限りなく低い。
現状、残っている上弦の鬼は壱から参。
どの鬼と会敵したとて、しのぶたちより遥かに高い戦闘力を持っていることはまず間違いない。
せめてあと1人柱がいれば光明が差すかもしれないが、しのぶやカナヲの鎹鴉と合流出来ていない現在は、他の柱と合流することもままならないのが現実だ。
「ありがとう、カナヲ。一緒に帰られるように頑張りますが、もしもの時は……頼みましたよ?」
「姉さん……」
必ず一緒に帰るとは言ってもらえずカナヲの目の奥がツンと痛み涙が滲みそうになったが、突然張り詰めたしのぶの雰囲気にそれは一気に引っ込んだ。
「血の匂いがします……カナヲ、気を引き締めて。この状況だと恐らく近くにいるのは上弦の鬼ですよ」
しのぶが重厚な戸の取っ手に手を掛けると同時にカナヲは日輪刀の柄に手を当て、いつでも抜刀出来る体勢を整えてしのぶの後ろ姿を固唾を飲んで見守った。
そして戸を開け中の様子を先に確認したしのぶの様子に首を傾げる。
今まで見たことがないほどに動揺していたからだ。