第21章 秘密と葛藤
お館様と聞き、今度はしのぶの表情に緊張が走った。
「そんなに……更紗ちゃんの様子がおかしかったのですか?」
昨日の更紗を見ていないしのぶからすれば、確かにいつもより元気がなく表情は翳っていたように思ったが、それほど深刻な感じは受けなかったのだ。
「あの子は治癒能力を持っているから人の生き死にに特に敏感に反応する……今までも何度かあったのだが、昨夜の取り乱し方は今までのそれとは違った。泣きも叫びもしなかったのだがな」
「そうですか。その理由を更紗ちゃん本人に聞けば答えてくれそうですか?」
今までの様子も加味して考えるが、基本的に不安定になった後は自分なりに解決させて終わってしまうので、杏寿郎が聞いたとしても答えなさそうである。
それに加え昨日あれだけ不安定になったにも関わらず、今朝はその事に一切触れてこなかった。
「いや、恐らく答えないだろうな。隠していると言うよりも、言えない事情があるように思う。取り敢えず注意深く様子を見ておく、なにか動きがあれば胡蝶にもほかの皆にも知らせるようにする」
頼みの綱である杏寿郎にも話さないのであれば、今はそれしか方法がない。
本当にお館様に関わることなら早急に対策を練りたいところだ。
しかしお館様本人からも何の沙汰もないので動くに動けない。
そんなもどかしい思いを2人は抱えているが……誰より更紗がそれを感じているのだろう。