第20章 柱稽古とお館様
目の前でオロオロしている更紗に、心配する必要は無いと言うように笑顔を向け、皆に声が届かない場所でそっと言葉を紡いだ。
「更紗、先の闘いで君は目を覆いたくなるような光景を目の当たりにするはずだ。でも……どうか目を閉じないで。救えない命があるかもしれないけれど、救える命も必ずある」
お館様は1度言葉を切って呼吸を整え、肩を支えるあまね様の手を握り締めた。
それが何を意味するのか……今の更紗には朧気にしか分からないけれど、きっと大切な人を想う人の心からくる行動に思えた。
「更紗は自分を過小評価しているようだけど、君の行いは決して小さなことじゃない。更紗にとっては小さく些細なことかもしれないけど、他の誰かにとっては大きな救いになることもあるんだ。それを忘れず……更紗らしさを見失わずに闘って欲しい」
「誰かの……救いになるのならば、最善を尽くすとお約束します。例え誰が倒れてしまっても……前を向いて救える命を全力で守り救います。だから……どうか」
これからも私たちを見守り導いてくださいーー。
そう伝えたかったのに言葉を出すことが憚られてしまった。
剣士たちを導いてやってくれと先ほど言われたばかりなのに、柱となった自分がお館様に甘えるような言葉は言えなかったのだ。