第20章 柱稽古とお館様
その剣士は自分より遥かに小さく華奢な更紗の胸ぐらを掴み、凄ませた顔を近付けた。
「何でもっと早く動かなかったんだよ?こんなに強くて規格外の力持ってんなら、俺たちの任務に同行してくれれば死なずに済んだ奴がいたんじゃねぇのか?」
ただでさえ男より女である更紗は小さいのに、体格のいい剣士に凄まれては恐怖が植え付けられる。
だが大切な仲間を殺されてしまったであろう彼の怒りを理解出来る更紗は、一瞬目を伏せてからしっかりとその目を見つめ返した。
「仰る通りです。私があなた方の任務に同行していれば、死なずに済んだ剣士は多くいたはずです」
「なら何で見て見ぬふりしてたんだよ!自分だけ死ななけりゃそれでいいのかよ?!」
剣士は胸ぐらを掴んでいた手を離し、怒りに任せて軽い体を押し飛ばした。
受身を取ろうと思えば取れたが、それでは更に怒りを増長させかねないと考えた更紗はされるがままに飛ばされ、地面へと体を叩きつけられる。
手が出た以上さすがに割って入ろうとした実弥を制したのは、更紗ではなく悲しそうに目を細めている杏寿郎だった。
「今助けてしまっては、彼の行き場のない怒りは俺たちではなく更紗へと向かい続けてしまう。もう少し様子を見てやろう」