第17章 歪みと嘘
翌朝、杏寿郎が目を覚ますと更紗は既に目を覚ましており、抱き寄せられたままうつらうつらと船を漕いでいた。
目は眠そうに何度も瞬きを繰り返し、今にも眠りに落ちてしまいそうである。
「おはよう、更紗。まだ日が昇ったばかりだ。もう少し眠っていて大丈夫だぞ?」
心地よく響く声に更紗は体をピクリと震わせ、眠そうな顔を杏寿郎へ向けて半分閉じている瞳を嬉しそうに細めた。
微笑み返しながらもどうしたのかと首を傾げる杏寿郎の顔へ布団から出した手でそっと触れる。
「どうした?」
何でもないとゆっくりと首を振るが、ぽつりぽつりと胸中を零した。
「1人でお昼に外で眠っているとお日様の暖かさで杏寿郎君の夢をよく見たんです、隣りにいてくれる夢。でも声が聞こえなくて、触れても感覚がなくて悲しくて目が覚めるんです。目が覚めるとやっぱり杏寿郎君はそばにいなくて。今朝もそうだったらどうしようって。昨日の出来事が全て夢で、本当は鬼舞辻に捕まって体を切り刻まれてるんじゃないかって思ったけど、ちゃんと夢じゃなかった」
更紗の鬼舞辻へ抱いている恐怖を初めて耳にした杏寿郎は胸に抉られるような痛みを感じた。