第16章 柱と温泉
枕元に置かれていた水差しから湯呑へと水を入れる更紗を不思議そうに見つめる。
「俺、なんで布団に寝てるんだ?ってか、怒んねぇのかよ?」
更紗は水差しと湯呑みを持ったまま玄弥へと視線を移し、首を傾げて笑顔で答えた。
「露天風呂で逆上せて溺れかけていらっしゃったので、杏寿郎君がここまで運んで下さいました。先程まで気を失ってたので……あと怒るとは?拘束した事に関しましては、怒るほどのことでもありませんよ。目が覚めて目の前に人がいれば驚くでしょうし。はい、お水飲んでください」
「……ーーっ」
軽い命の恩人に対して無意識といえど手を出してしまった現実に玄弥は頭を抱えだした。
怒ってくれるならまだしも、怒ることなく笑顔で……しかも手厚く看病までされてしまっては立つ瀬がないだろう。
それでも差し出された水をどうにか受け取り一気に喉へ流し込んで枕元に湯呑みを戻した。
「宜しければ団扇で扇ぎますよ?早く冷まさないと……」
「もう十分だ!い、いや、あんがと。もう大丈夫だから……月神」
そそくさと布団へ寝かそうと玄弥の背に手を当てていたが、ふいに名前を呼ばれてその姿のまま仰ぎ見る。