第16章 柱と温泉
2人の激しい鈴取り合戦を杏寿郎は感慨深く観戦している。
育手として鍛錬を付け始めた当初は木刀すら握ったことがなく、初めて素振りをした時は手を血塗れにしていた。
受け身もなかなか上手く取れず若干の癇癪を起こしたり天元との打ち合いで吹き飛ばされたり……
それが今では柱相手に必死に食らいついていっている。
よく泣くところは変わっていないが、涙を流したとて攻撃する手は止まっていない。
「成長する姿をこうして見られるのは、殊の外嬉しいものだな」
そんな独り言を近くにいた実弥が拾った。
「棗の件があった任務より強くなってんじゃねぇかァ。まぁえげつない数の任務をてめぇとこなしてりゃ、あいつの持ち前の性格や資質を考えれば頷ける成長だがなァ」
「あの子は素直な性格だからな。助言してやれば疑うことなくそれを真っ直ぐに受け止め実践する……それより弟は構わないのか?あの体格に恵まれた少年は不死川の弟だろう?」
チラと玄弥へ杏寿郎が視線を向けると今はこちらを見ておらず更紗と天元の闘いに見入っているが、先程から玄弥は実弥の様子を何度か伺っていたのだ。
「俺に弟なんていねェ。偶然同じ苗字なだけだ」