第16章 柱と温泉
頬から手を離した天元に小さく手招きされたので、更紗は言葉通りニカッと笑う天元の口元に耳を寄せた。
するとどんどん更紗の顔が赤くなるので、またよからぬ事を吹き込んでいると悟った杏寿郎は天元から引き離そうと肩に手を伸ばす……が、それと同時に振り返った更紗が顔を赤くしたままモジモジするものだから、手が止まってしまった。
「そのような顔をされては俺の方が恥ずかしくなるのだが」
そんな2人の様子を見て天元はニヤニヤ笑いながら立ち上がり、ちゃっかり茶の入った湯呑みを持って部屋を出ていった。
「あ、あの……杏寿郎君、たくさん心配かけてごめんなさい!」
全くの無警戒な杏寿郎に更紗はあまり衝撃を与えすぎないよう、フワリと肩へと腕を回し重力のままに杏寿郎を押し倒して僅かに触れるだけの口付けをした。
そして畳に背がつくと杏寿郎の胸元には心地よい重さと温かさが広がり、肩口に更紗の顔がうずめられたことにより柔らかな髪が呼吸に合わせて首筋をフワフワとくすぐる。
突然の事で何が起こったのか理解できなかったが、理解した瞬間に背中へ腕を回して心地良さに身を委ねた。