第16章 柱と温泉
「謝ることはない。無事ならばそれでいいのでそう落ち込むな。他にはもうないか?無茶をしたり言ったりして宇髄を困らせたりはしなかったか?」
更紗からは言えない……
路地で着替えた事や帯の中へほぼ強行して入っていった事など言えない。
だが嘘をつくことも出来ないので黙りこくるしか出来ずにいると、杏寿郎は訝しんで更紗の両頬を片手でムギュっと掴み、天元は吹き出した。
「姫さんの我儘なんてたいしたもんじゃねぇよ!俺との最初で最後の任務だったんだ、いい思い出になった!だが程々にしてやらねぇと煉獄の身がもたないぞ?どうせなら任務外で我儘の1つでも言ってやれ」
言わないでくれた。
帯の中に入った件に関しては百歩譲って任務のことなので注意だけで済むだろうが、着替えに関してはそうはいかなかっただろう。
「ふむ……宇髄を困らせてなかったのならば構わんが」
追求の手を逃れた更紗が頬を掴まれたまま安堵のため息を漏らすと、その手がスッと外され体をクルリと反転させられて向かい合う体勢にもっていかれてしまった。
「自分の体を大切にしなさい。していないと思うが、外で着替えたり敵の能力がはっきり分からないのに突っ込んでいくような無茶はしないこと、いいな?」