第11章 空は霧雨を落とす
『阿国
お前の最後を見届ける勇気もない私を、どうか許してはくれないだろうか。私はもう行ってしまうから、お前に残せるものは手紙しかない。ここに全て記しておく。
阿国がいると、自然私は幸せな気持ちになれた。些細なことで笑い、素直に泣き、思い切り怒る。お前の無邪気さ、明るさ、素直さ、その全てに感謝している。
ずっと幸せになってほしいと願っていた。いや、これからも願おう。私はお前の幸せを願う。
その笑顔を忘れるな。阿国の笑顔は幾人も幸せにした。本当だ。私も、お館様も、他の柱たちも、そしてきっと兄上も。
お前の笑顔を見ていると幸せになる。お前の涙を見ると胸が締め付けられる。お前が怒ると申し訳なくなる。
お前は本当に不思議な子供だった。いまだにあの衝撃を忘れられない。
兄上がお前を連れ帰ってきた時、そんなことをする兄上にも、兄上の腕の中で怯えていたお前の目が爛々と輝いていたことにも私は驚いた。
こんなことになってからでは、遅いだろうが。
私は、お前に鬼殺隊をやめてほしかった。
危険だからだ。いつかきっと、後悔する日がくると思っていた。
それでも阿国、お前は、ただひたすら真っ直ぐだった。
どこまでも一途に私たちの背中を追いかけてくれたお前を、鬼に傷つけられた人々のために涙を流すお前をどうして止められようか。
止めた方が後悔すると思った。
けれど、今となっては苦しくてたまらない。私はしくじった。やるべきことを果たせず何も守ることができなかった。
阿国のことさえ守れなかった。
兄上のことはすまなかった。本当に。私の責任でもある。
どうか恨まないでほしい。虫の良い話だが、兄上はお前に対して愛情の一つも持ち合わせていなかったとは思えないんだ。…そう信じたいのだ。
手紙が長くなってしまってすまない。
私はお前と同じところへは行けないだろうから、せめてこの手紙だけでも同じところへ送り届けようと思う。
もし、また会えたその時は凧揚げをしよう。私は下手くそだが、兄上は上手だから。
ありがとう、阿国。
お前に出会えて良かった。楽しかった。
継国縁壱』