第68章 幕間
バタン、と閉じられた扉を前に実弥くんが忌々しげに舌打ちをする。
……あらら、可哀想に。
「本当にすみません。あなたは私と一緒で気を遣ってしまったでしょう。」
「…いや、大丈夫です。」
「良かったです。」
怒っているというより魂が抜けたって感じだな。わあ〜さん、今日はたっぷり甘やかしてあげてくださいよ。
でもまあ…ちょっと意外だったな。
私に対してゴリゴリに嫉妬の目を向けてくるくせに、なんというか。
さんにはそれが全然伝わってないじゃないですか。
(じれってえええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!)
バレないようにギチギチと拳を握りしめた。正直今すぐぶん殴って心の中全部言葉にさせたい。ぶちまけさせたい。ああ俺が一人っ子でよかった。我慢するのは慣れてる。
……ああそりゃ、苦労するでしょうよ。
ちょっとしたお世話心が働き、私はちょっかいをかけることにした。うん、これでどう転ぶかは…この子たちに任せよう。
いわゆる、余計なお世話ってやつだ。
一緒にエレベーターに乗り込んだタイミングで私は口を開いた。
「さんって自由な人ですけど、君の前では大人しいんですね。」
「アレでですか…!?」
「おや?」
少し驚いた顔。
ああ、そこからですか。
「行動力の塊みたいな子ですから。」
「…それはまあ。」
「そんなんで大丈夫ですか?」
そこで私たちはエレベーターを降りた。
「ちゃんとココに留めておくのですよ」
トン、と彼の心臓のあたりを人差し指でつついた。それだけで彼はよろめく。
「結婚した相手だろうが…昨日会ったばかりの兄だろうが。あの子は飽きるのも夢中になるのも一瞬です。」
私はにこりと笑った。
「束縛も嫉妬も、ほどほどに。」
あの子を縛り付けていたのは何か。
過去か。
仕事か。
罪か。
父親か。
母親か。
全てのしがらみはもう彼女を解放してしまった。
さんは、自由を手に入れた。
あの子を一つの場所に留めていることは褒めましょう。いつも一人で気付けばどこかに行ってしまうあの子を、よくもまあ飼い慣らしているものです。
けれど彼女はもうどこにだって行けるのだから。
私は立ち尽くす彼を置いて、自分の家に歩を進めた。