第13章 余話
「橘主任、ちょっと来てください」
職場に行って朝一番、後輩に声を掛けられた。
訓練中の犬を中心とした犬舎とは別に、一時的に預かっている動物たちを収容している場所がある。
猿やヤギ、鳥類なんかの動物や極端に憶病だとか性格に難アリの犬や猫。
「…なんだこれ。 子犬にしてもえらくちっせぇな」
四角いケージの中に納まっているその子犬。
台所などにあったら布巾か何かと間違えそうに隅でうずくまっていた。
テリアとか、小型犬の雑種だな。生後一ヵ月位か?
おそらく。そう訊くと後輩が頷いた。
「官舎の前に捨ててあったんですよ。 うちは赤ちゃんポストじゃないっての」
「まあ、こいつにとっちゃ保健所よりゃマシだろ。 里親見つかるまでお前面倒見てやれ」
憤る後輩の気持ちも分からないでもないが愚痴っても仕様が無い。
手を上げて事務所に向かおうとした。
「いや、それがコイツちょっと扱いにくくって。 餌も殆ど食いませんし」
「ん? うちの獣医んとこには連れてったのか」
はい、回虫も無しで健康な筈だ、と。
ケージの隙間に指を向けてみると、わざわざ隙間からぐいっと顔をはみ出させてまで爪先をかぶと噛んできた。
「…元気だな」
なのにケージの中に手を入れると大急ぎで逃げる。
犬を手のひらに乗せてスポイトで流し込むも飯を戻す。
「おい。 言う事聞かないと俺の家に持って帰って飼うぞ」
するとこっちの言う事が分かるかのようにしぶしぶと飯に口を付け始めた。
食ってる間も警戒するようにこちらを睨んでいる様子。
「主任、ちゃんと餌食うようになったんですか? そいつ。 さすが、懐かれたんですかねー。 とりあえず何て呼びます?」
「旭」