第10章 いくつかの誤解
彼が私を引いたまま何も言わずに恐らく『その部屋』へと歩を進めている。
怒っている?
和泉さんが歩くのが早過ぎて表情が分からない。
「和泉さん」
当たり前のように鍵を開け、私を引き入れる。
そう、ここで。
この部屋から私の間違いが始まった。
「いいよ別に」
「…………?」
二歩程私の前に立っている彼。
静かな様子で話し掛けてくる。
「だけどきみがそんな女性だとは思ってなかった。 まあこっちはどちらにしろそのつもりだったけどね…相応の罰は覚悟しとけよ」
ゆっくりとこちらを振り向いた彼は、いつもの和泉さんでは無かった。
眼鏡の奥で光る目。
獲物を狙う、何かのような。
今回の事にショックを受けたり悲しむどころか、むしろどこか愉しそうな色をしている。
遥さんとも違う、得体の知れない。
この人は…一体誰だろう。
「い…和泉さ」
一体、何だろう。
背筋が凍った。
今更ながら遥さんの言葉が再び警笛の様に頭に響いた。
『工藤とは寝るな』