第56章 戦いを終えて
「杏寿郎さん…、そこまでちゃんと見てないです。嫌なものだったし思い出した事もないからもうどんなだったか忘れちゃってます。」
そう言った時、その言葉を聞いていたのかは分からなかったが 杏寿郎の目がやっと桜をきちんと見た。
杏「あの時もこういった場所だったな。」
「……はい。」
杏「本当にすまなかった。すぐ離れよう。」
「……………はい…。」
(本当に大丈夫なのに……。)
どこからか女の声が聞こえた気がして桜は慌ててまた杏寿郎にぴったりとくっつく。
すると杏寿郎は優しく肩を抱き寄せて歩いた。
杏「君は…噛んだと言っていたな。暴力に繋がる危険な行為を褒めてはならないと分かってはいるが…されるがままにならなかったと聞いて………驚いた。」
「暴力を振るう気配がしなかったからかな…。相変わらず力はあまり入らなかったけれど 噛んで……あと、『お粗末さま』って言いました。」
その言葉を聞くとずっと黒く重たい空気を纏っていた杏寿郎が呆気に取られたように目を丸くした。