第44章 ※ずるい人
思い切って言った言葉に追い打ちをかけられると桜は拳を更に強く握り、額をぐりっと杏寿郎の胸に擦り付ける。
「優しい口付けじゃなくて舌を入れて…もっといつものしてほしいです……。」
杏「だが今日はしないのではなかったのか。」
そう問われると桜は杏寿郎のペースに完全に飲まれてしまっていた事に気が付いて目をぱっちりと開いた。
「そうでした。一人でしてたんだった…。杏寿郎さん何で目を覚したのですか?私といるときは熟睡するはずです。」
恥ずかしがらせようとして放った言葉をきっかけに桜が冷静さを取り戻してしまうと杏寿郎は眉尻を下げる。
杏「君が身を震わせていたので自慰をするのだろうと思って寝た振りをしていた。それより…、」
「寝たふり上手すぎます…!いない時にしないとだめですね…。」
そう言うと桜は布団を出る。
予想外の言葉と行動に杏寿郎もつられて体を起こした。
杏「何処へ行く。」
「どこって…母屋です。起きてる杏寿郎さんの前で自慰をしては迷惑でしょうし…。」
桜が困った様にそう言うと杏寿郎は更に眉尻を下げる。
杏「此処でして良い。まだ外は寒い。向こうの部屋も暖まるまで時間が掛かるだろう。風邪を引いてしまうぞ。」
「でも…治せるので…。」
杏「行って欲しくない。側に居てくれないか。」
しおらしい表情と声に再び心を揺さぶられると桜も眉尻を下げる。
「杏寿郎さん、その顔…声もずるいです…。それからあなたの前でもっと……欲情、したら私流されて体を許してしまいそうなので、」
杏「いつ死ぬかわからない身なんだ、毎日しても悪くないだろう。」
それを言われると桜も流石に言葉に詰まらせた。