第1章 異変
「おはよう」
「・・・おはようございます」
神などいるはずない。
分かりすぎた事実だ。
私はそんなものに頼らない、でも。
「セイラ・・・泣きそうな顔をしている、俺は何時間眠っていたんだ?」
「・・・・・・気にしないで下さい」
思わずちらりと時計を見違った私の手首を、リヴァイさんがきつく掴んだ。
温もりが皮膚から伝わる。
心音と共に、意思のある指が私の心を掴む。
リヴァイさんの黒い大理石のような瞳がまっすぐに私を見ている。
心の奥底を見透かすような瞳。
抱き締められたくなる衝動を押さえ込み、私は腕を掴む彼の力に瞳を歪めた。
不安な思いがストレートに向けられるも、私がそれを取り除いてやる事は出来ない。
「ねぇ、リヴァイさん・・・」
「・・・セイラ」
ベッドから上半身を起こした、黒い艶のあるイケメンが私を見ている。
大きく開けた窓から入り込む風が、ふわりと私たちを撫で柔らかく微笑んでいるようだ。
カチカチカチカチ。
小さく聞こえる音は、私の脳内にこびりついているようだ。
鎖を引き、ズボンのポケットへ粗雑に突っ込んであったそれを持ち上げ、留め具を刺す。
小さな音と共に、銀の細やかな細工をされた蓋の部分が押し上げられ、中から現れたのは硝子の盤面と小さな針だ。
カチカチカチカチ。
小さく聞こえる音は、私の耳の中に入りこだまする。
こうして時を刻み、共に進む未来を見詰めさせてくれるその音を、どうして嫌いになれようか。
それが残酷な現実を伝えるものだとしても。