第4章 陽だまり
じゅ、じゅ、ちゅう、
「…んむ、ぁぅ」
「…すぅ…すぅ…」
平穏な世の訪れを待っていたかのように生まれてきた。
胸元にふわふわと触れる金と朱の髪と
着物の膝を掴んで離さぬまま、穏やかに上下する小さな背
「もう、一年。」
感じるふたつの愛しい温度と重みに、束の間目を閉じた
同じように私の胸元に口を寄せていた、少し硬い髪を思い出す
これからも私はこうして日々を生きながら、杏寿郎さんの面影を追うのだろう。
けれどそれはもう苦しくない。
膝に乗る絹のような黒髪をそっと撫でると、
きゅ、と着物の皺が深まった
「…ぁぷ…ふぁ…」
楓寿郎も、乳房に口をつけたまま眠ってしまったようだ
そっと二人を布団に寝かせ、くつろげていた衿を整えると、襖を開けて風を通す
庭の木に差し込む柔らかな光と風が、地面に万華鏡の影を映していた
「煉獄、いるか?邪魔するぜェ」
ふらりと部屋の前の庭に現れた白い髪の背に、『殺』の文字はもうない。
「こんにちは、不死川さん。」
不死川さんは、私のことも煉獄と呼ぶ。
…そりゃあ、間違ってはいないのだけれど…未だに少し、不思議な気持ちになる。
「この前から幾週も経っていないというのに、またいらしてくださったんですね」
「…悪ィかよ」
「ふふ…いいえ。杏火も楓寿郎も、不死川さんがくるといつもよく笑うんです」
杏火たちが生まれてから、不死川さんはかなり頻繁に訪れてくれる。
子供が好きというのはどうやら本当らしかった。
「チビ達は寝てるのか?」
「えぇ、今しがた。」
「そうかィ…じゃあ今日のところは」
「待って。せっかくいらしてくださったんですから、今お茶を。」
「…んじゃ、お言葉に甘えて」
と、不死川さんは持っていた包みを縁側に置いた。