第1章 日輪を繋ぐもの
季節は巡り、冬の空気が香り始めた10月のある朝、蝶屋敷にふたつの産声が響いた。
私によく似た黒髪の姉と
煉獄家男子の遺伝を濃く受け継いだ弟
真っ赤な顔で泣きながら懸命に燃えるふたつの命を、初めてこの手に抱いた時の気持ちは一生忘れない。
共に喜んでくれたであろう大きな手を思い、少しの寂しさと新たな命の喜びに涙が溢れた。
開け放した病室の窓から見上げた空には、大きな日輪が目をすがめるほどに輝いていた。
杏寿郎さん、
私だって、あなたの笑顔が大好きなんですよ。
あなたが笑ってくれるように、私も笑って生きますから。
どんなに悲しくても苦しくても
立ち止まり蹲ってしまったら、
せっかく堪えた涙はこぼれ、大好きな太陽も見えなくなることを知ったの。
だから歯を食いしばって上を向く。
そうしたらほら、少し笑顔にも見えてこない?
太陽が涙を乾かしてくれたら、たくさんの笑顔を贈るから。
だからまた会えたら、その時は私の大好きな笑顔でいっぱい抱きしめてくださいね。
私がおばあちゃんになっても、きっと見つけてくれますよね。
ーーーーひらひらと、風に乗って銀杏と紅葉が舞いこんだ。
『もちろんだとも。千聡』
寝台にふわりと落ちてきた葉に触れた瞬間、懐かしい匂いと温もりに包まれた気がした。
「杏火…楓寿郎…」
あなた達の父上がどんなに素敵な人か、どんなにあなた達を愛しているか、沢山話して聞かせよう。
あなたが私にくれたすべてと、私は歩く。
ずっとずっと、繋いでいくから。
遠い、未来までーーーーー
→あとがき