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風の噂

第1章 風の噂




「蛍?眠くなっちゃった?」

は、と顔を上げれば灯りに照らされたウェンティの顔があった。

ううん、と首を横に振りつつ後退る。息が詰まるかと思った。ウェンティの顔は女の子のように白く可憐で、それでいて目の奥には叡智を湛えている。その視線に見つめられてしまうと心の奥まで見透かされそうで、つい逸らしてしまうのだ。

「このまま寝ちゃってもいいよ。僕もこれが終わったら寝るつもりだし。」

ウェンティは日課...と言う、弾き語りをしていた。匿われているエンジェルズシェアの3階、倉庫になっている箇所に簡素なベッドを置いてウェンティは寝泊まりしている。

バーは遅くまでがやがやとうるさく、倉庫の壁は厚く、ウェンティの優しい弾き語りは外には漏れない。
私はそれを聞くのが好きだった。

「このまま寝てもいいって...ウェンティのベッド占領しちゃうじゃない。」

ディルックさんは大層わたしたちのことを気に入ってくれたらしく、まるで学生のお泊まりのように、私にもここに泊まるベッドを用意してくれていた。

だから時折ここで夜を過ごすが、今座っているのはウェンティのベッドの上だ。

「ん、たしかにそうだね」

ウェンティは含んだような笑みを零した。何が言いたいのかわからない。
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