第7章 今日からお世話になります
誰だか分からないけど、ありがたい。
私は、背中を無言でさすってくれている人に、心の中で深く感謝した。
そうして、呼吸をなんとか整えられたところで、私が後ろを見ると。
私の背をずっとさすり続けてくれた相手が分かった。
そこにはなんと、学校に行ったはずの環くんがいた。
なんでここに、と驚いたけれど。
私は、まず体の向きを変えて、環くんの正面に座った。
環くんは、無言のまま、しゃがんだ体勢で私をじっと観察しているようだ。
なんか、落ち着かない無言だな。
「あの、えっと、ありがとうね環くん。おかげさまで息がラクになった」
「もう、大丈夫?」
気遣わしげに寄せられた環くんの眉を見て、私は笑顔を作った。
大分心配をかけてしまっているようだ。
もっとお姉さんとして、ちゃんとしないと。
とは、思うのだが。
あんな姿を見せてしまっては、年上の威厳も何もあった物じゃない。
まあ、元からそんな物ありはしなかった、と和泉さん辺りになら言われてしまいそうだけれど。
私は、首をぽりぽりと二度かきながら。
環くんに伝える言葉を探した。
そして声に出す。
「さっきのは自分でもびっくりしたけど、ただ息がちょびっとだけ苦しくなっただけだと思うから。心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ、ありがとう!」
気持ち明るめに話すが、環くんの目は変わらない。
「大丈夫ってゆー時で、本当に大丈夫な人って、あんま居ない」
うぐっ、と心の中でうめいた。
図星だったのだ。
私は冷や汗が流れてくるのを感じた。
このままでは、根掘り葉掘り私の言いたくない事まで環くんに聞かれて、答えさせられてしまう。
のらりくらりと、かわしていければ良いが、それを許してくれるような気配もない。
仕方がない、と私は腹をくくり。
実に卑怯な手法を取った。
環くんの注意を反らしてしまおう。
「それより、学校は? 今朝確かに、和泉さんと環くんが一緒に登校していく所、見たはずだけど。そういえば和泉さんは一緒なの? 今日も、もしかして二人で早退する日だった?」
「いおりんは、マネージャーと話があるって言ってて、今隣の会議室。学校は日直代わってもらって早退。いおりんと一緒にここに来て、いおりんと別れたらこの部屋から変な音、聞こえたから。見たらいちねえうずくまって、しんどそうだったし」
