第78章 華ぞ咲く$
$$$
明くる日。
早朝の肌寒さで頭が冷えた二人が顔を見合せて苦い顔をする。
「その……済まなかった……体は平気、か?」
後ろ頭を掻きながら、鋼鐵塚が謝罪する。
対するしのぶはといえば、ずっとだんまりを決め込んでいる。
「……責任は、とってくれますか?」
漸く、しのぶの口から出た言葉は、核心を着くような鋭利な物だった。
「……子が出来ていてもいなくても、俺はしのぶにまた会いに来たい……」
『皆が仲良くする世界』
姉の言葉が過ぎる。
絵空事のようだと憤慨していた。
しのぶは姉と違って現実的だった。
だから彼が、冨岡が白藤と祝言を挙げた時に恋心というものを放り投げたつもりでいた。
けれども、しのぶの心を溶かしてくれた鋼鐵塚に少なからず惹かれたのも事実で……
「……また、会いに来て、くれますか?」
「必ず来る。しのぶにも、里に来て欲しい。良い温泉が有るし、山合いだから薬の原料もある……だから………」
「蛍さん。貴方を、好きになっても良いですか?」
「……駄目だ。……俺の方が先に……だから、言わせてくれ。しのぶ、好きだ」
ねぇ、姉さん。
この人となら、私も自分らしくいられるかもしれない。
「………私も好きです。蛍さん」
ー了ー