第8章 メガネ【月島蛍】
坂のふもと、芝生の上で転げたままの穂波さんに手を差し出す。
起き上がるためとは言え、手を取ってもらえた。
たったそれだけのことで少し心が浮つく自分が馬鹿らしい。
穂波さんは起き上がると見せかけて僕のことをぐいっと引っ張った。
完全に油断していた僕はまんまとバランスを崩し、
穂波さんに覆いかぶさるようにして倒れ込む。
両膝と片手を着いてなんとか、潰さないようにはできたけど…
ほんとこの人、馬鹿じゃないの…
って、はぁ!?
穂波さんは空いている方の手で僕の唇を覆い、その手の甲に口付けた。
見開いて僕の目を見つめながら、にやぁと目が弧を描く。
やり返せた!といったとこだろうか。
さっき、見覚えのある場所に来たと言って、
途端、壊れたおもちゃのようにありがとうを連発しはじめた穂波さんに僕も同じことをした。
口付けて塞いでやりたい衝動をぎりぎり抑え、手のひらで覆った。
だけどそれを、暗くて誰も歩いてないこんな場所でやり返す?
無意識だろうけど穂波さんの曲げた膝が僕の股に擦れてるし…
ほんっと、馬鹿じゃないの。この人。
握られたまま手を握り返し顔の横で押さえつける
「馬鹿じゃないの」
唇を覆っていた手も多少乱暴に取って押さえ付けると
『…蛍くん?』
にやにやと余裕を浮かべていた瞳が小さく揺れる
その目をじっと見つめながら唇を重ねる
ビクッと動く手を強く押さえて、
吸い付くように口付けた。
柔らかいな…