第5章 005
それまで何をどうしても開かなかったドアが開き、絨毯の上を足音もなく人影が近付いて来るのを、パーテションの後ろに隠れ、三人は息を潜めて窺う。
翔太郎の手にも、そして健太の手にも、自然と汗が滲み、額からも嫌な汗が流れた。
当然だ、今ここで見つかれば、誘拐は勿論のこと、不法侵入や、やってもいない殺人まで罪に問われる可能性があるのだから。
二人は顔を見合わせ、ジッとその時が過ぎるのを待った…が、ただ一人…、二人が感じている焦燥感など全く知らない大野は、呑気に鼻をほじり始める始末で…
つい数分前まで、元恋人の死に涙していた男とは、とても同じ人間には思えない大野の様子に、健太も翔太郎もある種の不信感を抱かずにはいられなかった。
そして二人が同時に感じたその予感は、
「ふ、ふ、ふぇーっくしょん!」
大野の盛大なくしゃみで見事的中した。
「そこに誰かいるのか」
声と同時に、三人を隠していたパーテションの端に、男の割には綺麗な指がかかった。
瞬間、二人の脳裏に浮かんだのは「終了」の二文字で…
二人は、ポケットに捩じ込んでいたキャップを被り直すと、再び清掃員になりきった。
…が、それが通用するわけもなく…
男の前を、リネン用のワゴンを押して通り過ぎようとするのを、
「待ちたまえ」
男の声が引き止めた。