第2章 002
ドクン…、と一瞬大きく打ち付ける鼓動。
健太は手にしたプリペイド式携帯が汗で滑り落ちてしまわないよう、しっかり両手で握って耳に当てた。
「もしもし…」
「俺…」
「ああ、どうした?」
心做しか緊張気味に聞こえる翔太郎の声に、答える健太の声も自然と重苦しいものになる。
「あのさ、今信号待ちしてる男…、見えるか?」
言われて健太は公園の先に見える信号に視線を向けた。
そこにはヨレヨレのトレーナーと、所々擦り切れたジーンズを履いて、足元にはそろそろ冬になろうという時期にも関わらず、サンダルを履いた男が一人立っていて…
健太はその男に見覚えがあった。
「もしかしてあの男が?」
健太が聞くと、翔太郎は「やっぱりそうか…」とだけ返して、電話越しでも分かるくらいに、長く息を吐き出した。
翔太郎が健太に電話を寄越して来たのは、一応手元に写真は用意していたものの、目と鼻の先にいるその男が、本当にターゲットなのか自信が持てず、最終確認を健太にさせるためだった。
当然だ。
翔太郎の手元にある写真に映る男は、ビシッとスーツを着こなし、髪だって綺麗にセットされているのに、目の前にいる男は頭の先から足の先まで、全てが野暮ったくて…
どうにも同一人物とは思えなかった。