第2章 002
店舗入口から離れた場所に車を停め、翔太郎が健太の膝の上からボストンバッグをヒョイと取り上げる。
膝の上の重しが無くなったことにホッとしたのも束の間、健太には別の不安が湧き上がって来る。
「お、おい、マジで爆弾とかだったら…」
翔太郎は冗談だと言ったが、イマイチ翔太郎の事が信用出来ない健太は、
「大丈夫だって(笑)」
何度翔太郎がそう繰り返したところで、やはり不安が消えるわけではない。
当然だ、健太には「大丈夫だ」と言われ続け、若くしてこの世を去った友人との、辛い過去があるのだから。
尤も、翔太郎はその友人を知らないし、健太も翔太郎には彼…富士岡耕太とのことについては、これまでもそしてこの先も話すつもりはないのだから、翔太郎が「大丈夫」と繰り返すのも仕方のない話しなのだが…
「開けるよ?」
「お、おう…」
翔太郎の手がチャックの引手にかかる。
健太はそれを息を飲んで見つめ、そしてジッと音を立ててチャックの引手が引かれた瞬間、ギュッと固く目を瞑った。
時間にして数秒…だろうか、想像するような事が起こらないのが分かったのか、健太は瞼をゆっくり持ち上げ、先にボストンバッグの中身を確認した翔太郎の後を追うように、ボストンバッグの中を覗き込んだ。
「何だ…これ…」
ボストンバッグの中には、上下ツナギになった作業着が二着入っていて、その胸元には世情にも疎い健太でも知っている名前のホテルのロゴが入っていた。