第2章 002
地下から地上に上がり、信号を渡った先に翔太郎の車が見える。
距離にしたら大したことないのに、気持ちが焦っているのか、やけに遠くに感じてしまい、タイミング悪く赤に変わった信号を待つ間、健太は人知れずブーツのヒールで地面を蹴った。
焦ったところで、信号が赤く灯っている時間が短縮されるわけでもないのに…
そして信号が変わった瞬間、健太は我先にと横断歩道に飛び出し、翔太郎の待つ車の助手席に乗り込んだ。
「取ってきたか?」
「ああ」
「よし、次行くぞ」
二人は短い会話を交わすと、ボストンバッグの中を確認することもなく、車を発進させた。
次の目的地に向かう間、健太は乱れた息を整えるため、何度も深呼吸を繰り返した。
そう長い距離を走ったわけでもないのに、動悸激しくて仕方なかった。
そんな健太の様子を運転席で見ていた翔太郎は、信号が赤に変わったタイミングで後部シートに腕を伸ばし、健太を待つ間に買っておいた缶コーヒーを取り、それを健太に差し出した。
「これでも飲んで少し落ち着け」
「お、おお…、サンキュ…」
健太は受け取った缶コーヒーのプルタブを引くと、若干温くなったコーヒーを、乾ききった喉に流し込んだ。
一見気が強そうに見える健太だが、実は見た目に反して気の弱いところがあるのを、健太とは幼馴染でもある翔太郎は良く知っている。
だからこそ、たかだかコインロッカーから荷物を持ってくるだけの、翔太郎にしてみれば子供のお使い程度のことでも、どれだけの神経をすり減らしたかが、手に取るように分かる。