第1章 001
翔太郎の携帯電話が鳴ったのは、丁度ハウジングセンターでのヒーローショーを終え、怪獣のスーツを脱いだ時だった。
翔太郎は一瞬迷った後、携帯電話を手に取った。
普段ならば頭に巻いたタオルで身体の汗を拭き、着替えを済ませてからしか手にはしないのに、その時は何故だかそうしなければいけないような気がして、汗ばむ手に携帯電話を握った。
届いたのはメールだった。
それも、見ず知らずの相手から送られた物だ。
翔太郎は首を傾げながらも、メールを開いた。
するとそこには「ある人物を誘拐しろ」という、一見すれば悪戯の様な文書が綴られていて、ご丁寧にその人物の名前から年齢、住所や連絡先、写真まで添えられていた。
「何だよこれ…」
不信感を抱いた翔太郎は、直ぐにメールを閉じた。
今はしがないスーツアクターだが、将来的にはアクション俳優を目指している翔太郎だから、厄介事に巻き込まれるわけにはいかなかった。
ただ、月に二度程しかないヒーローショーで手にする僅かなギャラと、友人の父親が営む電器店でのアルバイトの給料しか収入のない翔太郎にとって、報酬の100万円は魅力以外の何物でもなかった。
しかも、前払いとなれば、迷う余地はなかった。
何しろ、月末には、いつの間にか膨れ上がってしまった借金の返済が迫っていたのだから…