第9章 009
成瀬の見解によれば、弘行の死亡推定時刻は午前8時から10時の間。
その間にも翔太郎は、弘行からのメールを何度か受け取っていて、それは弘行が持っていた携帯電話の履歴からも確認が出来る。
(一体誰が…)
普段滅多に考え事などしない翔太郎の脳内は、最早パンク寸前…いや、思考停止寸前の状態にまで陥っている。
眉間に深い皺は寄り、額にも、そしてギュッと握った手のひらにも、汗が滲み…
「ハ、ハハハ…、なんか俺、頭真っ白になっちゃったみたい…」
変な笑いすら込み上げて来る。
そんな翔太郎の様子にみかねたのか、成瀬は一つ咳払いをすると、
「そうですね…」
と小さく言って席を立った。
そして、視線だけを榎本に向け、
「セキュリティに関しては無知なので、榎本さんにお任せするとして…」
ポットに残っていたコーヒーを、自分のカップに注いだ。
それ程乾いていたわけでもない口にコーヒーを含み、喉を鳴らすことなく飲み込むと、
「鑑識と検死を行ってみないと正確なことは言えませんので、あくまで仮定にはなりますが…」
前置きをしてから、ビッシリと書き込まれた手帳のページを捲った。