第1章 001
「どうする、のむか?」
回答を迫られ、翔太郎は一瞬片眉をピクリと持ち上げる様子を見せたが、すぐに表情を和らげ、
「分かった、のむよ。で、もう一つは?」
答えると同時に次を急かした。
「二つ目は…」
言いながら健太が今度は中指を立て、立てた二本の指を翔太郎の前に突き出した。
「俺が店の金くすねてることは、親父には絶対秘密だ」
まだ上手く誤魔化せているうちは良いが、もしこの事が知れたら…
健太は確実に住む場所を失うことになるし、最悪親子の縁さえも切られかねない。
歌のおにいさんの仕事だけでは、まだ十分とは言えない収入しか得られていない健太にとって、どちらか一方でも失えば、それこそ死活問題になる。
「どうする、のむか?」
言葉にこそしなかったが、健太の目は“のめないのであれば、協力はしない”と、そう物語っていて…
翔太郎は小さな笑いを零すと、ピッと立てられた健太の指を自分の手の中に握り込んだ。
「契約成立だな」と、ニヤリと笑いながら。
それから二人は公園ではなんだからと、翔太郎のアパートに場所を移動し、返信されて来たメールを元に、綿密な誘拐の計画を立てた。
尤も、誘拐を決行する日時も、誘拐後にターゲットの身柄を隠しておく場所も、全て指定済みだから、二人が立てた計画と言えば、誘拐に必要な車の手配と、ルートの確認くらいのものではあったのだが…
「001」~完~