第8章 008
(どうしたら良い?)
翔太郎が目で訴える。
当然、健太は(出るな)と首を横に振るが、自身の尻ポケットで震え続ける携帯電話が気になって仕方ないのか、しきりにポケットに手を突っ込んでは出しを繰り返す。
そして遂に…
(お、おいっ、待てっ…)
健太が止めるのも構わず、尻ポケットからプリペイド式携帯電話を取り出すと、二つ折になっていたのを開き、通話ボタンを押した。
自らを鼓舞するかのように「うっし!」と小さく気合いを入れ、プリペイド式携帯電話を耳に宛てた。
「もしもし…」
自然と声が震え、電話を持つ手も汗ばんで来る。
「もしもし…?」
もう一度声をかけてみるが、返って来る声はない。
(どうした?)
健太に目で問われ、翔太郎は明らかに困惑した様子で首を横に振る。
焦れた健太は、
「貸せ…」
翔太郎の手の中にある電話に手を伸ばした。
その時だった…
「もしもし」
それまで無音だった電話から、短い一言が聞こえて来て、翔太郎は携帯電話に向かって伸びて来た健太の手を咄嗟に掴んだ。
「もし…もし…?」
「はい」
「え…、ちょっと待って? どういうこと…?」
困惑と、そして動揺からか、翔太郎の額に汗が浮かんだ。
『008』ー完ー