第8章 008
翔太郎に話を聞いても無駄だと判断したのか、それとも翔太郎に対して不信感を抱いたのか、
「まあ良いでしょう」
榎本は健太に視線を移した。
黒縁眼鏡の奥の、冷ややかにも見える榎本の視線に、健太は一瞬ピクリと身体を震わせると、榎本の視線から逃れるように顔を背け、唇を尖らせた。
ところが榎本はそれに構うことなく、健太の視線の向く方へと身体ごと移動すると、その目の前にカードキーを差し出した。
勿論、翔太郎達が持っていた偽造されたカードだ。
「な、何だよ…」
「お二人が部屋に入られた時は、このカードを使って入られたんですよね?」
「そ、それがどうした…」
声色も、抑揚すら変えない榎本の問いかけに、健太はぶっきらぼうに答える。
その声が微かに震えているように聞こえるのは、やはり動揺の色を隠せないからなのだろう。
「このカードは偽造された物です。なのに何故ドアロックが解除出来たんでしょう?」
「んなこと知っかよ…。そもそも、同じサイズのカードなら、スイッチも作動すんだろ?」
だったら…
言いかけたところで、榎本がカードを手にしたままスッと立ち上がり、高級ソファに胡座をかいて座る健太を見下ろした。