第1章 おなじ眼をした馬と鹿
何に怒っているのかさっぱり分からない。お酒の所為なのだろうか、やはり。先程から立て続けに与えられる混乱の所為で、涙はすっかり止まってしまった。
「~~っ好きやって言うてんねや!」
今まで見たことないくらいの赤面で、彼が勢いのまま立ち上がる。その姿を見上げながら、やはり理解できずに、固まる。好き。好き?平子隊長が、私のことを?
その言葉を咀嚼できた途端に、つられるようにして顔が赤くなる。燃えるように全身が熱い。
「平子隊長、」
「なんや、どうせキショイとか言うんやろ!やめぇよ!?俺の心はお前が思てるより繊細やねん!」
「まだ何も言うてませんて」
「いーやわかる!どうせロリコンやと思ってんねやろ!!せやから言いたなかったんや!あー死にた!もう消えたいわ!」
1人で何を勝手に暴走しているのだろう。こんな時だけれど、少し面白い。だけど、うるさい。私からの気持ちも、ちゃんと聞いて。ワアワア喚いている彼の膝に蹴りを入れて転ばせる。抗議の声が上がる前に、彼の上に跨った。お酒の力って凄い。普段の私ならこんな大胆なことはできないだろうと、未だ冷静な部分が分析する。驚いた表情の平子隊長が面白い。もっと驚かせたい。もっと、私の知らない顔を見せて。欲望のままにグッと顔を近付ける。鼻先が触れ合う寸前で止めて、じっと彼の瞳を見つめる。
「い、いちま、」
喚かれそうな予感がしたため、その唇に人差し指を押し当て口を塞いだ、この距離で喧しくされるのは勘弁だ。
「好きです、隊長」
その薄い唇を、指先で撫ぜる。
「私んこと全部あげます。せやから、隊長んこと私に全部下さい」
固まった平子隊長に笑みを零し、すっと、指先を離す。その手を、掴まれる。
「………えっろ」
どこでこんなん覚えてきたんや。言って、手を勢いよく引かれる。吐息さえ肌に感じる距離。近すぎて、その綺麗な瞳しか、視界に入らない。
「………どえらい女になってもうて、ホンマ、勘弁しぃや」
噛みつくようなキスをされた。
同じ眼をした馬と鹿