第1章 おなじ眼をした馬と鹿
「おはようございます市丸隊長!」
「おはようさん」
きちんと立ち止まって挨拶をしてくれる隊士達に倣い、こちらも立ち止まってぺこりと挨拶をする。そうすると、隊士達は周りにぶわぁっと花を咲かせて喜んだ。浮き足立って去って行くその後ろ姿を見ながら、三番隊隊長として戻ってきたことを喜ばれているという事実に、少し照れ臭くなる。
「えらい人気やっちゃなァ、市丸」
「見てはったんですか、平子隊長」
ひょっこり。私の後ろから顔だけ覗かせて、同じく五番隊隊長に返り咲いた彼が言う。気配もなく近寄るのは止めてくれと言っているのに、この人は何度言っても直らない。…私の心臓に悪いから、本当にやめてほしいのだけれど。
「ほんで、三番隊に何の用です?」
「用なんてないわ。…なんや、用がなかったら来ちゃあかんのか」
「そんなこと言うてませんて」
歩きながら、軽口を叩き合う。未だに信じられない、この人がまたこうして瀞霊挺を歩いている事に。隊首羽織を着て、刀を振るう姿に。(やっと隣に立てた、)百年前、隊長と第三席だった頃、後ろをついて回っていた時とは違う。今は、同じ隊長として、隣を歩くことが出来るのだ。
「なーにニヤニヤしよんねん」
鼻をギュッと掴まれグイグイ引っ張られる。痛いと抗議しながらも、こうした些細なやり取りが嬉しくて。赤くなった鼻に少し涙目になりながら、素直に気持ちを吐露する。
「別にニヤニヤはしてまへんけど、…平子隊長が隊長としてここにおって、またこうしてお話できるんが嬉しいだけです」
へらりと笑うと、パッと顔を背けられる。知っている、これがこの人の照れ隠しだと言うことは。耳が赤くなっていることは隠せていないけれど。まったく、可愛い人だ。
「隊首羽織、やっぱ似合うとりますね。髪も、折角綺麗やったんに短くなったのは残念やけど…こっちん髪も好きですよ、私」
ほな私は十二番隊に用があるんで行きますわ。言って、フリーズしたままの平子隊長を置いて行く。朝から大好きな隊長と会えて嬉しいなあ、なんて花を飛ばしながら。
「……………アホ」
顔を真っ赤にして悪態を吐く彼には当然気づかなかった。
「……………らん~……」
「どうしたのよ、らしくないわねぇ。あんたがこんなに早く潰れるなんて」