第5章 火の神様の場所で
マリサイド
肩にもたれていたはずの私はかかしの膝枕で眼を覚ました。
見上げた視線に見えるのは
動かない狐の面をつけたままのかかし。
あれ…かかしも寝落ちしてる?
ゆっくりと、なるべく静かに起き上がりじっと見つめるけどまったく動かず、かわりに規則正しい寝息が聞こえてくる。
そっとかかしの体を抱き寄せて、静かにゆっくり同じように膝枕への体勢にもっていく。
かかしの体ってほんとに暖かくておっきい。
それにすごく鍛えてある。
少しドキドキしながら若干重いけど、なんとかかかしを横にすることができた。
「お面…」
はずそうとする手が、ギリギリのところで止まる
やっぱりかかしからはずしてほしいな…
あえてつけたままにした。
それから______
飛び起きて、何年も満足に眠れないと言った万年寝不足のかかしと、ゴロンと大の字になって横になり、2人同じ時間と目に映るものを共有する。
心が弾む
私、なんかすごい浮かれてるよ
あ‥‥
ほんの少しだけ
手が
触れてる
どうしよう…
いい…のかな…
そう思ってたら、かかしがそっと手を握ってくれた。
「ふふっ。かかしの手、あったかい」
思ったことがそのまま感情としてでた
手をつなぐってこんなうれしかったっけ…
そして_____
私はかかしと手を繋いで歩いている。
かかしと繋ぐ手はあったかかくて、隣にあった安心感が、手をつなぐことによって心の中まで温まる安心感と、なんだかくすぐったいこの感情。
孤独や疎外感、窮屈感を感じていた自分に、なぜか巡り合わされたこの不思議な体験。
たとえこの世界に今2人だけでも、数時間まえの1人よりも何倍も強くなれた気がした。
最初遠慮がちだったかかしの手が、さっきよりもしっかりと私の手を握りしめてくれている。
彼との距離がまた1歩近づいた。
その1歩がなんだかとてつもなくうれしい。