第1章 意地悪悪魔さま
長くない………。
朧の言葉に、ルシエルもまた、表情を曇らせた。
「知ってる。ルゥが夜中いつも会いに行ってるのは、『あたし』でしょう?」
「え」
「ルゥが命を、くれてるんでしょう?」
「…………」
「もともと先のない命だったの、知ってるもん。3年も生きられるはずないよ」
「朧………」
「いいよ。もう充分。ありがとう、ルゥ。今度はルゥが楽になって」
朧の願いは、『死』。
苦しみを終わらせたい。
その一心で呼び出した。
何度も何度も失敗して。
その度に命を縮めても。
叶えて欲しい願いがあったから。
譲れない願いがあったから。
だから何度失敗しても繰り返し願った。
『悪魔さま』に、会いたい。
自分の命を救ってくれた、幼い日のあの悪魔さまに。
だから。
だから。
『わたしをお嫁さんにして下さい』。
あの日の悪魔さまに出逢えたらそう、言うと決めていた。
10年前。
朧に掛けられた呪い。
朧が死ぬまで消えぬ呪い。
そのせいで幼い朧は死にかけた。
それを救ったのは、ルシエルだった。
朧の母親の命と引き換えに。
だけど朧に掛けられた呪いまでは、消えぬまま。
手足も動かず。
瞬きすることすら叶わず。
ただただベッドの上で横たわる日々。
苦痛の日々。
いつしか朧は、心から死を切望するようになった。
「ここは朧がいつまでもいていい場所じゃない。ほんとの朧は今もあの病室で眠ってるの。そうでしょう?」
「記憶が……?」
「ここはルゥが見せてくれた世界。ほんとはずっと、気付いてた。」
消された記憶。
ずっと一生、この空間に閉じ込めておこうと思っていた。
何も知らず。
わからず。
ずっと一生、ふたりだけで。