第27章 遠くの近く
「信長様…私の帯紐…」
「これは俺が金を出したのだから、俺のだ。
それに今、俺の手の中にある。
故、俺のだ」
ニヤッと魔王が笑った。
信長は手首に黄緑の帯紐を巻き付けている。
それを持って、声も出せない一瞬で絞め殺したのだ。
『死ぬか生きるかだ』
瑠璃は眼を瞑った息時に、
いつか誰かから聞いた、その言葉を思い出して、ハッと眼を開けた。
(あの言葉ー…それは…)
この世で生きる為の掟なのだ。
(ここのルールや)
避けては生きていけない。ならば
(受け入れるしかない)
瑠璃はもう眼を瞑らないし、
逸らしもしない。
潔くこの世の流れに流される。
自分の意思を持って。
「信長様、外は義昭様の息のかかった者に囲まれております」
1人の男が前に膝を突いた。
「お前はこちらの者か」
紅い瞳が確かめるように光。
「私はっ、光秀様についている者です」
信長が無言で頷いた。
『庵の中にも外にも人はおりません!』と慌てふためいて嘘の報告したのはこの男。
光秀の間者のひとりだった。