第27章 遠くの近く
ザッッ
乾いた土が埃をたてた。
「なぁ、この距離から届くのか?」
「それを試しに遥々来たのだろう」
何を言っている?と問うような口調で口角を上げる美しい男性。
愁情など一切ない冷淡な美しさ。
悪人を腹に隠した冷血とした笑みは人を惴慄とさせる。
硝子の破片のような美しい男性だ。
※惴慄…ずいりつ/恐れふるえる。
「帰蝶、なんでわざわざ付いてきた」
「ちょっとした好奇心だ」
興味のなさそうな表情と口調で、興味がある と言う。
「笑わせるぜ。興味なんてないくせに」
「…あるさ、この城が崩れ落ちる様にね」
金朱の豪華絢爛な城を帰蝶の硝子玉のような瞳が見上げる。
それにつられ、一緒にいる男も上を見上げた。
帰蝶の薄笑みは光秀に似て、腹の底の読めない。
冷たく陰湿だった。