第5章 さよなら
あの不意打ちのキスが頭から離れない…。
あの後一ノ瀬くんは何も言わずにクレープを食べ、そのまま帰ってしまった。
それから一ノ瀬くんは学校に来るようになった。
クラスメイトとも笑顔で話すようになっていた。
そりゃ、イケメンになった彼をクラスの女の子がほっとくわけがない。
もう昔の彼はいない…これでいいんだ…よかったんだよね…。
短い冬休みが終わり始業式の日。
彼の姿がない。
風邪でも引いたのかな?と考えつつ、体育館で退屈な校長先生の話を聞いていた。
教室に戻ると、担任の先生が暗い顔をしている。
「みんなに伝えなければならないことがある」
「一ノ瀬が今日の朝、自殺した。」
クラスがシーンと静まり返った。
「朝、起きてこない一ノ瀬をお母さんが起こしに行ったときにはもう…」
私の頬に涙が走った。
「みんなも知っていると思うが、一ノ瀬が転校してきてからいつもノートに何かを書いていたよな。お母さんが見せてくれたんだ。」
クラスメイトの良いところ!
・Aさん:いつも気配りができる
・Bくん:頭が良くて勉強が苦手な子に教えてあげていた
・Cさん:絵が上手。美術の学校に行きたいみたい
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そこにはクラスメイト全員の良いところが書かれていた。
ほんとは仲良くなりたかったんだよね…私だけがその想いを知ってたのに…。
文化祭の後にクラスのみんなと話すようになって一ノ瀬くんは幸せだと思ってたのに違った…
彼は分かっていたんだ。
人間の汚さを。醜さを。
見た目が変わっただけで態度まで変える奴らと話しても何も楽しくないことを。
もっとちゃんと話していればよかった…
一ノ瀬くんの気持ちに寄り添ってあげればよかった…
どんなに後悔してももう遅い。
・あやさん:こんな僕に優しくしてくれる。笑顔が素敵。クレープを一緒に食べたときに、この子僕と同じなんだって気付いた。ほんとは無理してるって。そんなあやのことが好き。