第19章 今できること
「あれ?春市くんは?」
「ごめん、嘘。君が困ってそうだったから連れ出しただけ。」
「聞こえてたんですね。すみません。」
「周りの言うことは気にしなくていいんじゃない?御幸もアクション起こしてないみたいだしね。」
待って、なんで御幸くんが私の事好きみたいな事で話が進んで行くのだろう。
戸惑っていると私の手を離して向き直った。
「当人同士の問題なんだ。外野は黙ってろって言ってやれば?
まぁ、でも、君がピッチャーだったとしたら、どうしても打ち崩したくなる気持ちはわからなくはない。
バッター心理としたら、攻略の難しいピッチャーほど燃えるけどね。」
亮介先輩の言わんとしていることが、全然わかんなくて頭にハテナが何個も浮かぶ。
「ハハッ、君には難しかったかな。ごめんね。」
「理解力乏しくてすみません。」
ハハ…と苦笑いをすると、おやすみと肩を叩かれた。
「明日は大声で名前呼んで応援頼むよ」
「任してください!声枯れるまで応援します!」
「球場でも君の声は通るから、心強い。」
おやすみと言って亮介先輩は寮の方へ歩いていった。
兄貴と御幸くんを重ねてるんだろうか。
御幸くんの距離感はどことなく兄貴に似てて、それが心地よかったりもする。
考えても考えても、みんなが言う好きと自分の中の好きがどう違うのか、全くわからない。
ほんと、恋愛不適合者だ。
亮介先輩と入れ違いに寮の方から、倉持くんと沢村くんが騒がしくやってきた。
「だから、若菜は違うって言ってるでしょうが!」
「ハハッ賑やかだね。」
「沢村がうるせぇの。聞いたか?明日、若菜って言う地元の彼女が応援に来るってさ。沢村のくせに生意気だ。」
「遠距離なの?すごいね!」
「舞姉さんまで!違うんですって、あいつはただの幼なじみで…ちょ、二人とも聞いてます?」
「あいつ、だってよ…」
「うん、今あいつって言ったね」
「彼女の事あいつ呼ばわりとは、隅に置けねぇ野郎だ。」
肩を組まれて、倉持くんとコソコソしていると「うんうん、そうだよなぁ」と棒読みの御幸くんが倉持くんと反対側の肩を組んできた。
いきなりの登場で腰を抜かしそうになった。
なんだかこのゆるい感じ、明日から準決勝って思えないほどだった。