第18章 怖さ
これが夏の一発勝負の怖さ。
試合が始まる前、誰かこんな試合展開を想像しただろう。
薬師と市大三高。
乱打戦を制したのは薬師。
イメージトレーニングしてるのか、御幸くんにはなかなか話しかけられない雰囲気。
3年の先輩達も気合い入りまくってて、試合後だから調整って言ってたのに、実戦形式のシートバッティングやってる。
監督に呼ばれた投手陣と御幸くん。
終わったのか、御幸くんが話しかけてきた。
「まだ声出ねぇの?」
先日の試合で声張り過ぎて、次の日はガラガラだった。
今はちょっと回復したけど、時々かすれちゃう。
「張り切って応援しすぎたかも。」
「よく聞こえてたよ、舞ちゃんの声。」
試合が始まれば応援しかできないし。
「うちの監督はホントすげぇよな」
誰かに聞かれないように、マネ室に入って鍵をかける。
「先発は降谷、沢村、ノリと3イニングずつの継投で行くって投手陣に自分の役割をしっかり認識させて、丹波さんには5回から準備しとけって、登板もあるって言ったんだ。」
「え?」
思わず目をぱちくりさせてしまう。
「な、俺も驚いた。監督の一言で丹波さんをエースとして自覚させたんだ。」
「チーム全員で戦い抜くことを考えてる。私達にも声かけてくれたよ。大事なチームの一員だって。ホントいい監督。」
「だな、俺もそう思う。」
締め切ったマネ室は蒸し暑い、そろそろ帰ろうかとなって、私は制服に着替える。
「待っててくれなくても大丈夫だったのに。」
「そういうわけにはいかないでしょ。女子寮は何故か学校の中つっきって行けねぇから一旦学校の外に出てかなり遠回りだし」
「でも、疲れてるでしょ?一人で帰れるよ」
「平気平気。ちょっとコンビニ行きてぇし。」
学校を出て女子寮に行くまでに一つコンビニがある。
客はほぼ青道の生徒らしく、他のコンビニと品揃えが多少違っていることも。
「ん、半分やる。」
チョココーヒー味のニコイチになってるあれ。
パキッと割って、半分くれた。
「なんか朝からこれが食いたくて食いたくてしようがなくてさ。」
「美味しいよね、これ。私も好き。甘いの嫌いじゃなかったっけ?」
「これだけは別。リトルの練習後にもよく食ったなぁ」
御幸くんを呼ぶ声がして二人してそっちを見た。