第13章 大会直前
グラウンドの方から、なにやら騒がしい声がする。
「沢村くんと降谷くんだ。試合したのに、まだ走ってたの?
タイヤで揉めてる…」
「アドレナリン出まくって寝れねぇんだろ?」
倉持くんが沢村くんのボールのことを御幸くんに聞いていた。
あ、それ私も気になってた。
「ボール自体は元々悪くねぇよ。」
沢村くんも降谷くんも足りないものが多すぎる。
今のままじゃ大事な場面は任せられない。
うん、そうだよね。きっとみんな思ってる。
でも、なにか大きな事をやってくれそうで、期待も同時にしちゃうんだよね。
「ここだけの話、お前丹波さんに嫌われてんじゃん、ヒャハ!」
倉持くん…確信に触れすぎてはいないかい?
御幸くんに負けず劣らず悪い顔だな…
御幸くんも自覚してるのか、言い返してないし。
「しょうがねぇだろ。投手と捕手二人合わせてバッテリーなんだ。
先輩とか後輩とか関係あるかよ。
投手をマウンドで輝かせる為なら、なんだってするぜ。
どんな嘘でも、どんな嫌われることでもな」
その御幸くんの言葉にハッとした。
兄が御幸一也っていう捕手に惚れ込んだのは、こういう所なんだろう…。
投手の為になることを必死で考えてくれる捕手。
昔、出会ったあのキャッチャーの子も、グラウンドでは選手は対等だって、先輩とか後輩とか関係ないって言ってたっけ。
御幸くんの意地悪な言葉に二人は翻弄されていた。
「あいつ、友達いねぇだろ…」
倉持くんが私の肩に腕を回してコソッと耳うちをしてきた。
「ん、ん」
自分と倉持くんを交互に指差して、友達でしょ?と訴える。
「あいつとは、友達なんかじゃねぇぞ!!」
肩組まれてる状態から、そんな大声出すから耳がキーンと痛い。
沢村くんたちを揶揄って、高笑いしながら寝よ寝よと寮に帰っていく御幸くんが、ダッシュで戻ってきた。
「舞ちゃん回収するの忘れてたわ。じゃ、お前ら早く寝ろよー」
倉持くんから引き剥がして、手を引かれた。
「みんなおやすみー。」
みんなに手を振ると、御幸くんから言葉が発せられた。
「今は甲子園一直線。それしか考えねぇから。
ちゃんと見ててくれよ、舞ちゃん」
「うん。見てる、応援してる。」
甲子園。今はまだ影も形も見えないけど、このチームならやってくれると信じてる。