第10章 怒り
嫌な予感が的中した。
聞こえてしまった。
クリス先輩が沢村くんに言った言葉。
「この先、お前がエースになることはない」
「俺達の3年分の想いをお前に預けることはできない」
クリス先輩はリハビリのため学校を後にした。
別メニューを春乃ちゃんに渡して。
クリス先輩の言い残したメニューを踏みつけている沢村くん。
春乃ちゃんが止めたけど、納得いってないみたいだ。
室内練習場からミットの音がする。
きっと降谷くんが御幸くん相手に投げてるんだな。
悔しそうな表情で室内練習場を見ていた。
「よしっ、今日はこんなもんかな。」
夏の本線に向けて、千羽鶴を作っていた。
部員に見つからないようにこっそりマネージャー室でみんなで作っている。
あと、お守りも。
部員全員に渡そうと思ったら今から準備しとかないと間に合わない。
ロッカーに仕舞って片付けていると声をかけられた。
「ひゃぁ、み、御幸くんか…びっくりした…」
「聞いてくれよ。降谷のやつ、あと10球だって言ったのに、それ以上投げやがって。
ようやく逃げてきた。匿って。」
あれから、結構時間たったのに今まで…
「投げることに飢えてたのかな?同級生に受けれるキャッチャーがいなかったとか?」
「そんな所だろうな。目、輝かせてさ。投げることが楽しくてしょうがねぇんだろうな。でも、もういい加減疲れた。癒やして。」
「ちょ、重い…無理…」
力を抜いてもたれ掛かってくる御幸くんを支えられなくて、退いてと背中を叩いた。
「もうちょい…このまま…」
いいのかな…これ。
近すぎる…抱きつかれてるこの状況。
最近、御幸くんのスキンシップというか、ボディータッチというか…
距離が近すぎて、ドキドキさせられてばかりだ。
「ん、ありがとう。」
ありがとうじゃないよ…
どうしてくれるのよ。顔が熱い…。
「もうここも締めるから出て。」
「寮まで送ろうか?もうちょい話したい。」
降谷くんの事だったり、クリス先輩と沢村くんの事。
彼が今思ってる事を寮に着くまで、ふむふむと黙って聞いていた。
「仲良くとまではいかないかもしれないけど、クリス先輩の事誤解してそうで、ちょっと心配。」
「そうかもな…でも、あの人についていけば沢村はもっと成長できる」
そう言って御幸くんは空を眺めた。