第7章 御幸の記憶
試合で矢代に会うたびに、俺に声をかけてくる。
「なぁ、御幸はもうどこかから推薦来てたりすんの?」
「一年のときから、青道に声かけてもらってるけど、行くかどうかわかんねぇ。でも、正捕手争いをしてみたい選手が今あそこにいるんだ。
敵わないって思ったたった一人の一人。」
「滝川さんか?」
「そう。」
「青道か…俺も青道にしようかな…」
「話しあんの?」
「ま、一応。俺さお前とバッテリー組みたいんだ。お前のミットめがけてボールを投げ込んでみたい。」
「お前、ほんとに俺のこと好きだよな。」
揶揄うように言ったら、妹の話をし始めた。
あいつのチームの監督は女の子には野球はさせないというか、危ないからとグラウンドに立たせないって考えの持ち主で、妹ちゃんは泣く泣く野球を諦めたみたいだ。
「その妹が、捕手が好きなんだよ。自分は投手やってたくせにな。
キャッチング、肩の強さ、強気のリード、あいつの理想の捕手像を聞いたら、お前しかいねぇんだ。
野球を諦めたあいつの分まで、俺は必死にやっていきたい。
あいつの理想とする捕手と組んで甲子園に連れてってやりたい。」
「妹想いのかっこいい兄ちゃんだな」
「お前の力がどうしても必要なんだ。
俺が青道に入れたら、バッテリー組もう!頼む!」
「決めんのは、俺じゃなくて監督!」
そりゃそうかとあいつは笑った。
最後のシニアリーグの試合が終わった時も、春には青道で会おうと約束した。
特待生は早々に練習に参加する。
「あー、礼ちゃん。矢代って投手入学する?」
そう、礼ちゃんに聞いたら顔が曇った。
「彼は、うちに推薦で来ることが決まってたの。でもね…」
嘘だろ…。
交通事故?!
子供を庇って?
お前が言ったんじゃねぇか…バッテリー組もうって。
なんとも言えない感情がグルグル身体を駆け巡って行く。
あいつの妹は、お前が甲子園に連れて行ってやるんじゃなかったのか?
優しいお前だから、咄嗟に子供を庇ったんだろう。
こんなことなら入学してからの楽しみなんて勿体つけずに、一度くらいボール受けてやれば良かった。